放課後等デイサービスや児童発達支援の業界において、経営者や施設長が最も頭を悩ませる課題の一つが「人材採用」です。厚生労働省の調査によると、保育・福祉関連業種の有効求人倍率は全職業平均を大きく上回り、深刻な人手不足の状況が続いています。
特にここ数年の傾向として、単に「人が集まらない」というレベルにとどまらず、「集まった人が定着しない」「教育・育成に時間がかかる」といった質的な課題も浮き彫りになってきました。この状況下では、採用難を乗り越えることができる施設と、そうでない施設の明暗が急速に分かれ始めています。
本記事では、採用競争が激しい中でも優秀な人材を確保し、スタッフの定着率を高めている施設の特徴をご紹介します。これらの施設が実践している施策を理解することで、貴施設でも人材確保戦略の改善につながるヒントが見つかるはずです。
目次
採用難が深刻化する背景
人材採用の難化は単なる「人口減少」だけが原因ではありません。複数の構造的な要因が重なっています。
業界全体の認識・イメージの課題
放課後等デイサービスや児童発達支援は、仕事のやりがいは大きい一方で、給与水準が低いというイメージが根強く存在します。これは過去の経営管理の甘さや、処遇改善加算の活用不足から生まれた認識です。新卒層や転職希望者の間では、この業界への就職が「選択肢の一つ」ではなく「最後の手段」と捉えられているケースさえあります。
競争の激化
同じ地域内での施設数増加により、同じ求職者を巡る競争が尋常でない水準に達しています。大手民間企業や名の知れた法人が参入してくる中で、知名度の低い施設が人材確保戦略を何も工夫していなければ、採用選考に応募してくる人数そのものが圧倒的に少なくなります。
ジョブマッチングの失敗
採用時には「仕事内容と現場のギャップ」が大きな問題となります。求人票では聞こえの良い説明がされていても、実際に働いてみると「想像と違った」「教育・研修が不十分」「職場の人間関係が悪い」といった理由で、入職数ヶ月で離職するケースが後を絶ちません。
勝ち残る施設が実践している5つの特徴
採用難を乗り越えている施設を分析してみると、共通する特徴が見えてきます。
1. 給与・待遇以外の「働きやすさ」を徹底的に整備している
給与を上げることだけが採用対策だと考えている経営者は多いですが、実は採用において最も重要な要素は「働く環境」です。勝ち残る施設では、以下の点を意識的に整備しています。
- シフト制度の柔軟性:固定シフトではなく、スタッフのライフステージや希望に応じた勤務体制を構築
- 有休消化の実績:「休暇取得を推奨する文化」が浸透し、年間の有休消化率が80%以上
- 残業時間の管理:業務効率化により、月間残業時間を10時間以下に抑える工夫
- 育児支援体制:短時間勤務制度や託児所連携など、子育て中のスタッフへの配慮
これらの施設では、「給与は業界平均程度でも、働きやすさで選ばれる」という現象が起きています。
2. キャリアパスと教育体系が明確に設計されている
若い世代や未経験者にとって重要なのは「この施設で働くことで、どのようにスキルアップできるのか」という見通しです。採用難を克服している施設では、以下の仕組みが整備されています。
- 職位・役職段階の透明化:新人→副主任→主任→施設長といったキャリアパスが明示される
- 資格取得支援:児童発達支援管理責任者、保育士資格取得への経費補助や勤務調整
- 研修プログラムの体系化:入職時の導入研修から、各段階での専門知識習得研修まで、計画的に実施
- 定期的な1対1面談:スタッフの希望やキャリア志向を把握し、成長の実感を得られる機会を設ける
こうした施設では、スタッフが「ここなら成長できる」と感じられるため、離職率が業界平均(30~40%)の半分以下という施設も珍しくありません。
3. 職場文化・人間関係を意図的にデザインしている
採用難を乗り越えている施設では、経営層が「職場文化の構築」に積極的に取り組んでいます。これは単に「仲が良い」というレベルではなく、組織として目指すべき方向性を全員が理解し、そこに向かって協力できる環境を指します。
- ミッション・ビジョンの共有:なぜこの施設が存在するのか、どんな子どもたちの支援を目指しているのかが全スタッフに浸透
- 定期的な全体ミーティング:月1回以上の定例会で、経営方針や成功事例、改善点を全員で共有
- 新入職者のメンタリング制度:ベテランスタッフが新人の相談相手となり、職場への適応をサポート
- スタッフ間の交流機会:勉強会や懇親会の開催により、部署を超えた関係性を構築
職場に「居場所感」を感じられるスタッフは、多少の労働条件の不満があっても転職しません。このような文化を持つ施設は、求人応募時の面接に進む応募者の評価が自然と高くなります。
4. 採用・配置・育成のプロセスを科学的に管理している
勝ち残る施設では、「良い人を採用する」ことを再現性のあるプロセスとして管理しています。
- 求人票の工夫:業界用語を避け、実際の仕事内容と職場の雰囲気が伝わる具体的な説明に変更
- 採用試験の多段階設計:書類選考→適性検査→面接→現場体験という段階を踏み、ジョブマッチングの精度を高める
- 入職後3ヶ月間の密集フォロー:新人育成に最も時間をかけ、早期離職を防止
- 定期的な適性確認:配置の見直しや部署異動を通じ、スタッフが最も力を発揮できるポジションを模索
これらの施設では、採用活動を「コスト」ではなく「投資」として捉え、時間と労力をかけています。
5. 地域や学校との関係構築に時間を投じている
意外かもしれませんが、採用難を乗り越えている施設の多くが、学校や福祉系の養成校との関係構築に積極的です。
- 学校との連携:高校の進路指導教諭や養成校の教員との関係性を築き、学生紹介の道を作る
- インターンシップ受け入れ:学生に現場を体験してもらうことで、早期からの関係構築と採用候補者の獲得
- 業界イベントへの参加:福祉業界説明会や求人フェアに積極的に出展
- 既存スタッフの口コミ活動:職場環境に満足しているスタッフからの紹介採用を仕組み化
こうした施設では、「採用」が経営層の一部だけの業務ではなく、全スタッフが関わる活動として組織化されています。
給与「以外」が重要になった理由
ここで立ち止まって考えるべき問題があります:なぜ、かつて「給与が低い」ことが最大の課題だったこの業界で、今は「給与以外の要素」が重要になってきたのでしょうか?
その答えは簡潔です:処遇改善加算の浸透により、給与差が縮小したからです。
2012年の処遇改善加算導入以来、きちんと加算を申請している施設とそうでない施設の給与水準は大きく接近しました。つまり、もはや「給与で差をつける」ことが難しい環境になってしまったのです。
この状況下では、同じような給与条件を提示している複数の施設の中から「どこで働くか」を求職者が選ぶことになります。その際の判断基準は、当然ながら「働きやすさ」「成長性」「人間関係」といった、給与以外の要素になるわけです。
逆に言えば、今後の採用競争で勝ち残る施設は、こうした「ソフト面」の整備に先行投資できた施設です。
自施設を振り返る3つのチェックポイント
ここまでの内容を踏まえて、貴施設の採用戦略を改めて評価してみてください。
チェック1:スタッフの勤続年数分布は健全か
採用難の施設ほど「新人ばかり」という状態に陥っています。3年以上勤続しているスタッフが、全体の50%以上いるかどうかを確認してください。この比率が低ければ、職場環境に何らかの問題がある可能性があります。
チェック2:年間の有休消化率は把握しているか
スタッフが充分に休暇を取得できているか、月単位で把握していますか?有休消化率が50%未満の施設は、スタッフのストレス蓄積が深刻である可能性が高く、採用難の悪化を招きます。
チェック3:採用活動に「時間投資」ができているか
経営層が求人票作成、学校訪問、面接に時間をかけているでしょうか?採用を人事担当者だけの業務として放置している施設は、競争相手から遅れを取ります。
採用戦略の改善は、戦略的なコンサルティングから
ここまでご紹介してきた「勝ち残る施設の特徴」は、決して突然できあがったものではありません。多くの場合、経営陣が組織の課題を客観的に把握し、改善計画を立案・実行する中で、少しずつ形作られてきたものです。
しかし実態として、多くの施設長は日々の運営に追われており、「採用戦略を練り直す余裕がない」という状況に陥っています。
自施設の問題点を正しく認識し、業界で成功している他施設の事例を参考にしながら、段階的に改善していくには、外部の専門家によるサポートが不可欠です。
カスタムメイドエコルドのコンサルティングでは、採用・人材育成に特化した支援を行っています。
- 現在のスタッフ構成と離職原因の分析
- 職場環境・制度設計の改善提案
- 求人票やキャリアパスの具体的な設計
- 研修プログラムの企画・実行支援
採用難を「仕方のない時代の流れ」と受け入れるのではなく、組織全体で改革する機会として捉えることが、今後の経営安定化の鍵となります。
貴施設の採用課題について、専門家の視点から改善策を検討してみませんか?まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。











